Interview 横長のノート使いで「書く」という経験を ステーショナリーディレクター 土橋正さん

「文具のことなら、この人に」と言われるほど、文具に詳しい土橋正さん。言わずもがなのロルバーン経験者ということで、オフィスにお伺いしました。アイディアのひらめきやロルバーンの使い方について話を聞きたいと伝えると、「アイディアを広げるために、ノートは横向きに使っています」と興味深い返答が。さて、どういうことでしょうか?

Photo:Yasuyuki Takaki Text:Chizuru Atsuta

黒鉛芯で書くことは、何かを作っている感覚に近い

—まず、アイディアが浮かんだ時にどうやってストックしているのか、そのために工夫していることを教えてください。

アイディアって思った通りに浮かばないものです。その前提に立って、仮に机が無くてもすぐに書き留められるような体制を取っています。いつもパンツの後ろのポケットに入れているのが鉛筆付きの手帳IDEA piece。オン、オフの服装に関係なく、サッと書き留められるようにしたいと思い、行き着いたのがこの形でした。常にこれがポケットに入っていて、思いついたことをここにメモしていくというのが、最初のアイディアをつかみ取るファーストステップですね。

—紙に「書く」ということは大事ですか。

アイディアを思いついて頭の中にひらめいたままにしておくと、間違いなく無くなってしまう。書くことの大切さは、後で見返すことよりも書いたという身体的経験が記憶に残ることなんです。一方でパソコンのメモは経験になりにくい。やはり入力するのとは違いがあって、書く方が圧倒的に記憶に残る。中でも鉛筆で書くことが記憶を残すのには最適です。鉛筆の文字というのは、ミクロの世界で見ると立体なんです。紙というでこぼこした繊維の上に黒鉛の欠片が乗っている状態ですね。染みこんでいくボールペンとは違って、黒鉛芯で書くことは、彫刻や粘土で何かを作っているような感覚に近いかもしれません。より身体的刺激が強いのだと思います。

考えるための時間を確保する

—浮かんだアイディアを膨らませるにはどうしたらよいでしょう。

実践しているのは、考えるための時間を確保することです。机に向かって30分か1時間、その日の予定の中で時間を作る。今までは隙間でやっていたけれど、それは違うなと気づきました。すべての仕事にはそのための時間を確保しないといけない、それを実践した途端うまくいったんです。他のことから解放されてそのことだけに集中できるから、より形になりやすいのだと思います。

—では、ロルバーンはどのように使われていますか。

これまでいろいろなノートを使ってきましたが、共通して言えることは、アイディアノートは横長の状態で使うと考える時にとても使いやすい。今ロルバーンのB5サイズを使っていますが、横にすることでどんどん書き広げていくことができる。人間の目は横に二つ並んでいるからか、自然に書ける気がするんです。小さなホワイトボードに書くような感じでしょうか。必ずしも文字を書くのではなくて、思いついたところにランダムに書いていくような作業が多い。それと罫線は好きではなくて……。それこそ学校の授業などで要点をまとめるには適していると思いますが、いざ考えようと思って向かうと、罫線が気になって引っ張られてしまう時がある。そういう意味でロルバーンは5mm方眼で図も描きやすいし、線の色も薄い。主張しすぎず、なんでも受け止めてくれるところが好きですね。

—アナログ的な作業が大切なように感じますが、デジタルとの住み分けはいかがでしょう。

いろいろと試行錯誤して分かったことは、自分の使い方に応じて、アナログとデジタルのそれぞれの良さを活かすことですね。最初のアイディアでは刺激の得られる紙と鉛筆。原稿を書く時はすでに自分の中で溢れそうなものを出すというだけの作業なので、よどみなく文字にできる紙と万年筆を使います。けれども最後はパソコンに入力してデジタルで納品します。さらに使い終わったノートは、リングをバラして、スキャンしてデジタル化。ノートは処分してモノを増やさない。アナログの良さももちろん好きですし、デジタルにしかできないこともうまく取り入れて活用しています。